富士山麓青木ヶ原樹海に発見した
西湖第8風穴,西湖第11風穴について
西川正己・地学部探険隊一同
埼玉県立川越高等学校 1995「紀要」第32集
1.始めに
本校地学部探険隊が1991年8月と1994年7月,富士山の北西山麓の青木ヶ原樹海を構成する溶岩地帯に新洞窟を発見し,日本火山洞窟協会(現日本洞窟学会)から正式に「西湖第8風穴」「西湖第11風穴」と命名された.調査の結果,西湖第8風穴は3層の構造を持ち溶岩流末端に特徴的な洞穴で最深奥部には見事なラヴァボール(溶岩球)があって価値ある洞窟であることがわかった.また溶岩流の表層に形成された西湖第11風穴は小さいながら洞窟の壁面が剥離してできた溶岩棚が洞内に広く分布して一定の価値を備えた洞窟であることが分かった.
場所は両者とも山梨県南都留郡足和田村で西湖の湖岸から南西約700mの青木ヶ原樹海内にある.この洞穴周辺の樹海内には根場民宿村から竜宮風穴に通じる樹海遊歩道と旧西湖YHから富岳風穴へ通じる樹海遊歩道が交叉している.この交叉点から...[sake注:所在地の詳細であり記載いたしません]...に西湖第8風穴があり,...[左同]...に西湖第11風穴が開口する.
青木ヶ原樹海は青木ヶ原溶岩流によってもたらされた溶岩地帯の上に形成された原生林である.貞観6年(864年)の長尾山の大噴火によって流出した溶岩流は標高差500mを7kmに渡って流下し「せの海」を西湖と精進湖に分断し,西湖の湖岸には今も迫り来る熱い溶岩の崖があって噴火当時の溶岩の激しさを物語っている.
今までの我々の調査からは青木ヶ原溶岩流の全体像を捉えることはできないが,次に述べる溶岩洞窟の測量から1130年前の青木ヶ原溶岩流の予熱を多少とも感じとることができたと思う.
写真1 西湖第8風穴入口
樹海遊歩道から100mの位置にある.洞口の標高は927mで,大小2つの入口がある.
写真2 西湖第11風穴入口
樹海遊歩道から5mのところにある.洞口の標高は934mで,大小2つの入口がある.
2.測量の方法
(1)準備する測量器具
ハンマー,コンクリート釘,水糸,巻尺A(50m),巻尺B(3m),箱尺(3m),折り尺(1m),ハンドレベル,画板,定規,分度器,筆記用具,クリノメーター
(2)携帯する装備
ヘルメット,キャップライト,強力なハンドライト,ストロボ付カメラ,軍手
(3)測量の方法
溶岩洞窟の平面図と断面図を作成するために次の順序で測量した.
1.基線を設定する
測量の基準になる線を洞内の見通しが利く方向に設定する.水平になるようにハンドレベルで確認すると良い.西湖第8風穴では必要に応じて数本設定した.
2.基線から左右の壁面までの距離を測定して平面図を作る
巻き尺や折り尺を使って基線と壁面までの距離を測定し平面図を洞内で作成していく.測定の感覚は壁面の凹凸が変化する事におこなってゆくのがよい.洞内のどの部分を測定したら良いかの判断に迷う場合もあり経験を要する.
3.基線を延長して主洞や支洞の測量範囲を拡げる
主洞の方向が変化するときは分度器で角度を測定して基線を延長する.この場合巻き尺を使ったり,狭いところでは箱尺が細部の測量に適していた.
4.平面図に磁北を記入する
巻き尺を使って基線を洞外に延長して磁北を測定する.測量にはクリノメーターを使用するのであるが,富士山の溶岩は鉄製分の多い玄武岩であるため,地形的に周囲より高い位置に立って方向を測定する.
5.洞口を通る縦断面図を作成する
洞穴の垂直方向の変化を記録するために基準線に沿って天井と洞床までの高さを測定し作図してゆく.延長した基準線が傾斜した場合はハンドレベルを使って変化量を求める.
3.西湖第8風穴について
この洞窟の入口は2m×1mの洞口Aと0.4m×0.3mの洞口Bの2ヶ所あり人間が出入りすることができるが,洞口C,洞口Dは小さく出入りはできない.洞口巻の位置関係は第2図のごとくであり,N40W方向に位置し,AとBとの洞口間距離は11.5mである.
第2図 西湖第8風穴の洞口の位置関係
西湖第8風穴は全体として表層部,中層部,下層部の三層に分かれており,上下との連結関係が認められ,青木ヶ原溶岩流の末端に形成された溶岩洞窟として興味深いものがある.特に表層部と下層部を連結する穴がいくつも見つかり,2次溶岩流の動きを知るのに役立つ.
表層部は洞口Aを左に入った部分(第1室と呼ぶことにする)と洞口Bを入って左右に広がる部分(第2室と呼ぶことにする)の2カ所あり,中層部は洞口Aを右に入って広がる部分であるが未測量となっている.下層部は中層部と連続しているが,上層部第2室とも連結しており,地表から最下層部床面との落差は10mである.
表層部第1室は総延長24mで,直径2m深さ0.6m等ロート状をした穴が2カ所あり,未固結の溶岩から何らかの原因で落ち込んで形成されたものと考えられる(第3図).
第3図 西湖第8風穴・表層部第1室の平面図(上)と断面図(下)
写真3 ロート状のくぼみ
滞留していた2次溶岩流が下に落ち込んでくぼみを作った.
次に洞口Bから入ると左右に広がる西湖第8風穴,表層部第2室は総延長75mである.第2室は第1室に比べて高く,空間的にもかなり広くなっている.下層部と連結する穴がNo.1〜No.8まで8本認められた.洞穴形成後洞内を2次溶岩流が満たされた表面が溶岩テーブルとして認められ,洞穴の状面に2次溶岩流の一部が付着しているのもNo.2の穴付近に存在する.
写真4 穴No.2の付近の溶岩鍾乳
天井にはたくさんの溶岩鍾乳があり一部はぶどう状鍾乳でガス圧の変動を物語っている.
写真5 洞床にあいた穴No.2
初生的空間の連結で2次溶岩流の移動がこの穴を通じて展開した.人は通れない.
写真6 天井に付着した溶岩
溶岩テーブルと同じ高さの天井に付着して残ったもの.穴No.2付近.
第4図 西湖第8風穴・表層第2部の平面図(上)と断面図(下)
4.西湖第11風穴について
西湖11風穴は1994年夏,川越高校地学部探険隊が夏合宿の樹海調査に際して西湖YHから富岳風穴に通じる樹海遊歩道わきに発見したものである.測量の結果2つの洞口があって洞内には壁面剥離によって形成された溶岩棚が所々に見られ,表層洞穴ながら保存状態は良好で総延長は55mであることが分かった.
標高934mにあり洞内測量図(平面図と断面図)を第6図に示す.平面図は1994年の夏,武井俊博,中川靖之,西川正己の3名が実施した.断面図は1996年1月,佐藤友彦,関口忠慶,西川正己の3名が実施した.洞内の様子について次に述べる.洞口は遊歩道のすぐ脇に1m×1mのものが1つ,遊歩道から5m入ったところに2m×1mのものがひとつ計2つを確認した.両者は水平方向に狭い通路で連結している.第6図のように風穴が樹海遊歩道の真下にほぼ水平に展開して存在している.内部は中腰でたてる程度の高さがある.また,図中に示すように溶岩棚の発達が著しい.
第6図 西湖第11風穴の洞内測量図・平面図(上)と断面図(下)
写真9 溶岩棚(Aタイプ)
洞穴の側壁に付着した2次溶岩流が剥離し重力によってロール状に丸まったもので,内部は中空になっている.(西湖第11風穴)
写真10 溶岩棚(Aタイプ)
西湖第11風穴には溶岩棚の発達が顕著で大蛇のごとく見える.全体的に床面の沈下は少ない.
5.おわりに
1988年に発見した神座川越風穴に続き,1991年に西湖第8風穴,1994年に西湖第11風穴を青木ヶ原樹海内に発見し,日本火山洞窟協会(現日本洞窟学会)から正式に認定されたことは本校地学部探険隊の活動の蓄積がなせるわざと高く評価して良いと考える.今回は未測量だった西湖第8風穴と西湖第11風穴の測量結果を掲載することができた.西湖第8風穴の一部が未測量のため全体像が完成できていないのが残念であるが,今後の課題として測量計画を立ててゆきたい.また青木ヶ原溶岩流の分布する樹海内意から発見報告された風穴でも主要な洞窟を除くと未測量になっているものが多いので地学部探険隊の活動として測量していくことが必要である.
最後に,有益な示唆を与えて下さった日本洞窟学会の小川孝典先生,先生引率等でお世話になった元顧問の後藤朝彦先生,前顧問の内野進先生には大変お世話になり記して謝意を表したい.
参考文献
「富士山の溶岩洞穴,溶岩樹型の地質学的考察」第2巻第3号(1980),日本洞窟協会
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